海賊帝国の女神〜1話目「自己紹介」〜/米田

まずは、自己紹介。

 

 

私の名前はアーク・クィンツ。

 

この国の女王だ。

 

 

女神と呼ぶ者もいる。

 

というか、女神と呼ぶのを容認している。

 

 

別に自意識過剰っていうつもりはない。

 

ただ、そう呼ばせた方が、私にとって甚だ都合がいいから黙認しているだけだ。

 

 

黙認?うむ。もっと積極的な感じがするが…。

 

そこは、それ、大人の事情ってやつだ。

 

 

あ、いや、詳しい事情は、追い追い書こう。

 

 

なぜ、私が女王となったか?

 

なぜ、私が女神と呼ばれるようになったのか?

 

実は、そろそろ、それを、私自身によって書き残さないといけないかな?と思って、ここに記すのだ。

 

 

これは、今の私の民に読ませるつもりのものではなく、いく世代を経た将来の、私と似たような経験をするかもしれない、ちょっと残念なヤツの、ちょっとした好奇心を満たしたり、あるいは、この世界で生きていくヒントになれば良いなぁ。

 

ぐらいの目的で残すものだ。

 

 

でも、女神と呼ばれる私の遺物なのであるから、少しは有難がって読んでくれても構わないぞ。

 

女神の記録なんだから、それはそれ、その方面では聖典に類するものになるだろう。

 

 

あ、だから、今、君がどういう文体でこれを読んでいるかわからないが、もしも私に信仰がある者なら、きっと神々しく、重々しい文語体で読めるだろう。

 

その場合は、私の事を、大いに崇め敬えば良い。

 

むふふふである。

 

 

だが、私の事なぞ、なんとも思ってないなら、きっと砕けた口語体で読めるはずだ。

 

それはそれ…私は別に構わないが…周囲には、少しは私の事を、敬ったフリをしてくれると…私はちょっとだけむふふである。

 

 

まぁ、無理は言わないが、少しぐらいなら、構わないであろう?

 

 

え?

 

ダメ?

 

ダメなの?

 

 

…うむ。

 

 

でも、私も女王とか、女神とか言われる立場だから、それぐらいで、拗ねたりいじけたりなどしない。

 

 

そう。

 

私は寛大なのだ。

 

 

私の寛大さは海よりも広く、空よりも青く、雲よりも白いのだ。

 

 

まさに、この、エーシャギークの王城から見る、清々しい眺めのように。

 

というか、眺めそのものだと言っても良い。

 

 

ああ、今日も、照りつける太陽が、キラキラと、眩しいではないか?

 

 

あぁっと…。

 

脱線してしまった。

 

 

うむ。

 

 

だから、そう。

 

 

君が私の事をまったく敬えなくても、讃えられなくても、崇められなくても!

 

そのまま…この、私の記録を読み進めてもらって構わない。

 

 

うむ。

 

 

それはそれで、実にまた、結構この上ない事だ。

 

どーせ君は私と同じ、ちょっと残念なヤツに違いないのだからな。

 

 

うぷ。

 

 

どうだろう?

 

この私の態度に、少しは、感銘したのではないか?

 

 

え?

 

 

うざいって?

 

 

あ、いや…。

 

まさか、そんな事は思わないだろ?

 

 

もし君が、本気でそんな風に思ったとしたら、私はヘコむぞ。

 

 

いいのか?

 

 

女王にして女神の私がヘコんでも。

 

 

いいのか?

 

 

いや、いかんだろ?

 

 

そう、絶対いかんとか、思わないか?

 

 

…ああ?

 

 

思わない?

 

 

そう…。

 

 

…そう…だろうね。

 

 

そうさ、君はそういうヤツだろう。

 

所詮、この世界に飛ばされるヤツなんて、そういうヤツに違いない。

 

 

結構結構。

 

私は気にしない。

 

 

むしろ同情せねばならない存在なのだろうからな。

 

君は。

 

 

うむ。

 

 

そうなのだ。

 

 

話しを戻すと、ご多聞にもれず、私は君と同輩だ。

 

 

あ、いや、先輩というべきか?

 

 

つまり、私も君と同じ転生者だ。

 

 

君がどういう世界からここに来たのかは、問わない。

 

 

私と同じ世界から来る可能性は、限りなく低い事は承知しているからだ。

 

 

だが、私の、この、物語を読み進めるにあたり、事前の知識として、私が、もともといた世界ではどういう存在だったのか?

 

それを、極めて簡単かつ簡潔に説明しておこう。

 

 

先にも述べたように、この世界での私はアーク・クインツ。

 

女王にして女神と称される存在だ。

 

 

君がこれを読んでいる時点で、私の国が残っているかどうかはわからないが、とりあえず、こっちでの性別では女という事になる。

 

 

だが、この世界に来る前、私は男だった。

 

 

あ、君が元いた世界に性別があったのかどうか知らないが、私の元いた世界には、性別があったのだ。

 

 

その上、私は、そこそこ年齢を経ていた。

 

 

つまり、元の世界では、それなりに生きて、それなりにくたびれた…男。

 

それが私だ。

 

 

だが、こちらの世界で、私が目覚めた時、私は、フレッシュフルーティな4歳だった。

 

 

その上、女である。

 

 

さらに言えば、まごう事なく美幼女だった。

 

 

もちろん、目覚めた当初は自覚などなかったが、アーク・ハーティ…。

 

つまり、私の父親が持ってきた鏡を見た時は衝撃的だった。

 

 

鏡の中には、輝くような金の髪と、透き通るような肌をした、天使のような幼な子が、そこに居たからだ。

 

 

それが自分だと理解するのに、数秒掛かったぐらいだ。

 

 

いや、この世界の者たちが、私を見る時の輝く瞳の理由が、よくわかった瞬間だと言っても良い。

 

 

うむ。

 

 

…君は私の容姿について疑うのか?

 

 

ちょっと大げさすぎると思うのか?

 

 

いや、それは実にそうではない。

 

 

自分で言うのもなんなのだが、本当に天使がそこに居たのだ。

 

 

そう、私が後に女神と呼ばれる理由の一端は、そこにある。

 

つまり、私の容姿にあるのだ。

 

 

同時に、私が、人生を必死に生きた理由もそこにある。

 

 

と、言うのは、要するに…可愛すぎるからだ。

 

 

人間、特に男というのは、可愛い女に目がないだろ?

 

 

私は、もともとが男だったから、男のそういう劣情はよく理解出来るのだ。

 

 

だから、私は鏡を見てすぐ察した。

 

 

これは、ヤッヴァいと。

 

 

まだ4歳にして、この容姿。

 

しかも、私は貧弱と来た。

 

 

貧弱、ヒンジャク、ひぃんじゃくぅぅぅぅぅうううう!

 

 

そもそも、無理があるのだ。

 

私の透き通るような肌は。

 

 

とてもじゃないが、エーシャギーク…いや、このウーマの島々を照らす日光の中、やっていけるものではない。

 

 

君がどこの世界の、どこから来たのか?

 

あるいは、こっちの世界のどこに暮らしているかは知らないが、日光を舐めては行けない。

 

 

日光は毒だ。

 

 

刺々しい光の針だ。いや、槍だ。

 

 

透き通るような白い肌には、その槍どもへの耐性がないのだ。

 

 

少しでも長い時間、外で日光を浴びてしまうと「あら、いやん」と、倒れてしまうぐらいなのだ。

 

 

別に吸血鬼属性があるわけではない。

 

 

いや、これだけ日光にリスクがあるなら、それぐらいのメリットがあっても良いのだが、残念な事に、私は、それに恵まれなかった。

 

 

まったく、とほほの話しである。

 

 

だが、私が貧弱なのは、きっと肌だけの問題じゃない。

 

 

と、いうのは、私の母親にも問題があるからだ。

 

 

いやいや、むしろ父親が問題なのか?

 

 

詳しい説明は後にするが、要するに私の両親には問題があって、その結果、私は貧弱なのだ。

 

 

貧弱の美幼女。

 

 

貧乳の美少女ではないぞ?

 

 

まだ幼女なのだから、ツルツルペッタンコなのは当たり前ではないか?

 

 

だが、貧弱の美幼女。

 

 

それだけで、私を取り巻く環境は危険の塊だ。

 

 

何より私は、私の両親について詳しく知った事で、父親にすら危険を覚えた。

 

 

この危険をどう回避するのか?

 

 

それが私に与えられた最初の課題だった。

 

 

だが、いくら前世の記憶があるとは言え、所詮4歳の身。

 

すぐにどうこうなるわけがない。

 

 

とりあえず私は、何が私に出来るのか?

 

どうすれば正解の行動なのか?

 

それを知るために、じっくり周囲を観察する事から始めた。

 

 

てか、他に出来る事が思い浮かばなかったのだ。

 

おそらくこれを読んでいる君もそうなのではないか?

 

他の世界から転生してきても、いきなり行動出来る事なんてない。

 

 

まぁ、転生ではなく、転移者だったら違うかもしれないが。