海賊帝国の女神〜4話目「馴染めない」〜/米田

えーと、君の元いた世界では、転生についての知識は豊富だったのだろうか?

 

私の元いた世界では、転生とか転移っていうのは、コンテンツの一つだった。

 

 

コンテンツとは何か?って?

 

 

うーん。

 

 

異世界相手だと説明が難しいねぇ。

 

 

コンテンツは『中身』っていう意味なんだけれど、それじゃわからないか。

 

 

いろんなお話しの『内容』と言えばわかるだろうか?

 

 

つまり、沢山ある物語の、一つの分類に、異世界からの転生とか転移について、よく語られていたんだよね。

 

 

 

え?実際に、異世界からの転生者とか転移者とかが居たのかって?

 

 

うーん。居たかもしれないし、居ないかもしれないし、それはわからないね。

 

 

物語はあくまで物語で、実際にあった出来事を書いたとは限らない。

 

一種のホラ話?ホラ話とわかった上で楽しむ娯楽?

 

そういうモノの中に異世界への転生とか、転移モノがあったんだな。

 

 

 

で、前の世界の私は、そういうホラ話しが大好物だったんだよね。

 

だから、自分が転生した事は、それほど違和感なく受け入れられた。

 

 

え?元はホラ話じゃないか?って。

 

 

うむ。

 

 

ホラ話しが現実にあったらって、よく妄想するじゃないか?

 

 

え?君はしないの?

 

 

まぁ、それじゃあ、転生とか転移でこの世界に来た時は、状況が理解出来ない事だらけで苦労したんじゃない?

 

私は、普段から、そういうホラ話に接しまくっていたから、転生したという状況はすぐ理解した。

 

 

 

でも、理解はしたが、すぐ世界に馴染めたのか?といえば、それは全然違う。

 

 

 

そもそも、私の元の世界のホラ話し…異世界転生、転移ものって、通常、中世ヨーロッパ風の世界に行くのだ。

 

 

中世ヨーロッパ風とは何かって?

 

南来(パテラー)人の故郷みたいな所だよ。

 

いや、現実に南来(パテラー)人らの故郷に転生していたら、まさに王道の異世界転生モノもだったのであろうなと思う。

 

 

 

だけど、私が目覚めたのは、ご存知のようにエーシャギークだ。

 

 

海に囲まれた島だ。

 

 

近くにはトクトウムとかウリィテムとか、島は結構あるけれど、そういったイヤィマから外れれば、どこまでも広がる海の中の諸島群の一つの島に過ぎない。

 

 

そればかりか、エーシャギークは随分と未発達の島だった。

 

 

前にも書いたけれど、そもそも家にトイレがないのだ。

 

 

私の元居た世界の、私が知る限りの昔でも、肥溜め式のトイレはあった。

 

農家のトイレは、家の中じゃないけれど、家の外には厠があった。

 

 

だって、農業やるのに、肥溜めって必須じゃない?

 

だったら家の敷地内にそれ用の施設ぐらい作るでしょ。

 

ところが、この島にはそれすら無かったんだよ。

 

衝撃的だよ。

 

 

 

てか、土間と床で分かれているような我がアークの家は、この島では進歩的な作りな部類で、島人の何割かは竪穴式住居か?って言うような所に住んでいた。

 

 

一応、家の囲いは、石を積んだだけとはいえ、しっかりあるのだけれども。

 

 

着るものだって、一枚布を簀巻きにして穴を開けて手を出し、帯で締めた、初期型着物って風なのがメインファッションらしいく、弥生時代ですか?ここは?って感じだった。

 

 

え?

 

 

弥生時代って何かって?

 

ごめん、もう説明が面倒だから、パスしていいかな?

 

 

 

ともかく、そんな所だったのは、異世界転生モノとしては、かなり外道な部類だ。

 

異世界に転生した事は理解出来たけれど、この世界設定は、ないんじゃないか?

 

どこかにリセットボタンが落ちてるんじゃないかと、随分探したよ。

 

だって、まだ龍に会う遥か以前だったから。

 

異世界転生の仕組みがわかっていなかったから。

 

 

 

あと、

 

 

「ステータス」

 

 

とか叫んでも、何のウィンドウも出て来ないんだぜ?

 

 

ガッカリだよ。実にガッカリだ。

 

 

男の子のロマンは早々に打ち砕かれた。

 

まぁ、転生してからは女の子だけれども。

 

 

 

でも、魔法使い的な人は居た。

 

 

救いだよ。

 

 

『祈女(ユータ)』って云うらしいけれど、祈る事で何か超人的な力を発生させるらしい方々が居るのだ。

 

 

名前の通り、女性限定らしいのだが。

 

 

そして、私は、なんとその祈女(ユータ)なのだった。

 

 

えらい。私。

 

すごい私。

 

 

4歳の祈女(ユータ)っていうのは、相当ハイレベルな存在らしかった。

 

 

だから、私は島の中では尊敬を集めていたらしい。

 

 

うーん…島中の尊敬かどうかはわからない。

 

あくまで、私が住む、ウォファム村の界隈の話しでは…らしいけれども。

 

 

 

で、祈る事で何か超人的な力を発生させられるかもしれない私は、それを思い出して早速試そうとしてみた。

 

 

だが、具体的にどうすれば良いのかがわからない。

 

 

クィンツの記憶を探っても、いまいちパッとしない。

 

 

せいぜい、何か、踊っていた覚えはあるのだけれど、それがどういう効果効能を生み出すのか不明なのだ。

 

 

 

おのれ、所詮は4歳の記憶である。

 

チェって感じだ。

 

 

 

クィンツの記憶が私に教えてくれた事は、自分が祈女(ユータ)であった事、祈れば何かあるという事だけなのだ。

 

 

何をどう祈るのか?

 

魔法使いみたいに、呪文を詠唱するのと違うのか?

 

 

う〜ん。う〜ん。と頭をひねって見たのだが、どうにも思い出せない。

 

 

 

というか、それ以前に、暮らして行くのに、もっと解決せねばならない事、気になる事が色々ありすぎたのだ。

 

 

トイレもそうなら、土間と床しかない家もそう。

 

 

ちなみにワンルームだ。家の中は部屋ごと分かれていない。

 

部屋ではなくて家屋で分かれている感じだ。

 

 

 

その上、まずもってご飯が美味しくない。

 

 

前の世界の私は、好き嫌いなく何でも食べられる大人だったが、この世界はそんなレベルではない。

 

 

一応、米みたいな穀物があるのは救いだが、それすら白米じゃない。

 

玄米と云うか、それ以前と云うか、ロクに脱穀してないような、辛うじてご飯というような物が出て来る。

 

 

小麦文化ではないらしいので、パン的なものは、ナン的なモノも含めて見当たらない。

 

 

ご飯と一緒に出てくるのは、何かのスープで、苦しょっぱい。

 

 

味噌味ではない。

 

海藻みたいなものが浮かんでいる。

 

 

それから、肉や魚も出てくるが、えぐい。

 

 

焼いてはあるのだが、表面が真っ黒で、煤けていて、中は火が通っていない感じだ。

 

味付けなんか、されているワケがない。

 

 

 

でもって、食べるに当たって、箸はない。

 

 

先を細くした感じの細長い棒、一本を握って食べる。

 

 

肉とか魚は、その棒で刺して切り裂き、手で摘んで食べる。

 

 

その後しょっぱいスープを飲む。

 

 

どうやら塩すら無いので、そのしょっぱいスープは調味料も兼ねているらしい。

 

 

 

量は、そこそこあるのだが、そもそも食欲がわかない。

 

 

食べるのが楽しくない。

 

 

修行のごときだ。

 

 

大人たちは、結構食べているのだけれども。

 

 

…まぁ、当たり前だろ。

 

 

それしか食べた事がないのなら、それ以上を知らない。

 

 

想像すらしない。

 

 

食事を改善しようという発想はないだろう。

 

 

 

「クィンツ?どーした?食べないと、体良くならないぞ」

 

 

と、食事の時、親父のハーティが言っていた。

 

 

一応心配してくれているらしい。

 

やっぱり赤鬼にしか見えないのだが。

 

 

「クィンツ様、まだ具合が悪いのですか?」

 

 

と、女中というか、雑役婦というか、メイドというか…この家で、そういう役割であるチュチュ姐(ネーネ)も心配そうに顔を覗き込んで来る。

 

 

ちなみにチュチュ姐(ネーネ)の顔は真っ黒である。

 

 

真っ黒といっても、アフリカンな感じではなくて、アジアンのすごく日焼けした感じなのではあるが。

 

 

その真っ黒の顔で、二つの目だけは丸く白く、クリクリっとしており、それぞれの真ん中に、これまた真っ黒な瞳が、私らしい影を反射して、印象的だった。

 

 

以外と鼻筋も通っており、肉厚の唇が、魅惑的な、南国風の美人さんである。

 

 

中身おじさんの私は、4歳の女児であるにも関わらずトキメクのであるが、彼女のお腹は大きく膨らんでいる。

 

 

もうすぐ産まれそうだよ。

 

 

 

チュチュ姐(ねーね)は19歳で、これでもウィーギィ爺の嫁だ。

 

だからお腹の子は、ウィーギィ爺の子だ。

 

子だよ。…うん。きっと。そうさ。

 

 

というか、ウィーギィ爺は、白髪のヒゲと眉と、ついでに頭だが、そんなに年寄りでも無かった。

 

 

ハッキリした年齢はわからないが40歳ぐらいだと言っていた。

 

 

40歳か…爺と呼ぶには若いが、嫁が19歳というのは…解せぬ。

 

 

まぁ、親父が与えたらしいのだが。

 

と、クィンツの記憶が教えてくれた。

 

 

 

話しを戻して、ともかくご飯が美味しくなくて、悲しくてしょうがない。

 

 

チュチュ姐(ネーネ)に心配そうに顔を覗かれても、それがちょっとトキメク美人さんでも、こればかりはどうにもならない。

 

 

「もういいよ」

 

 

と、食器を乗せた盆をチュチュの方に押す出す。

 

 

チュチュ姐(ネーネ)は悲しそうにその盆を下げた。

 

 

 

これがご飯問題だ。

 

次に、風呂問題だ。

 

 

トイレが家の外の木陰なんだから、家内に風呂なんてあるワケがない。

 

 

クィンツの記憶では、時々川に行って水浴びしていたようだが、それより小さい時は、水の入ったカメに入れられた記憶がある。

 

 

当然お湯ではない。

 

 

エーシャギークは暑い地方の島ではあるが、水に入る時はやっぱり冷たい。

 

 

カメの中の水にドボンとされた時、ドキンと心臓が跳ねた。

 

 

心臓発作になっていたらどうすんだ?と、カメに入れた親父に、心の中で、今更悪態を付いて見る。

 

 

それはともかく、今はどうすべきか?

 

 

川に行くのは『時々』だが、その『時々』の間がわからない。

 

 

なんか、ちょっと体が痒んだけれど、とかぶちぶち思う。

 

 

 

昼間、いきなり土砂降りになって、雨の跳ね返りで、思いっきり泥水を浴びたり、そうかと思うといきなり晴れ渡って、すごく蒸し暑くなって汗だくになったり、とか、やっぱり毎日でも風呂に入りたいと強く思った。

 

 

しかも、泥水や汗で濡れた体を、布とかで拭き取らないで、乾いた草の塊で拭くとか…いや、そもそも、余分な布が少なすぎるとか、なんて云うか、生活水準が原始的すぎてどうしようもない。

 

 

それが、この世界に来て、数日の経験であり印象だった。

 

 

だから、魔法使い見たいな、祈女(ユータ)なんだと云う事を思い出しても、その魔法の確認?祈りの実践なんてまるで出来なかった。

 

 

まったくもって、何でこんな世界に転生したのだろう?

 

 

元の世界に居た時の転生モノは大好物だったけれど、実際に転生したら、帰りたい、帰りたいと、毎日、毎時、毎分思っていた。

 

 

まぁ、よく思い出してみれば、転生モノでも、主人公以外の転生者は、結構ひどい目に遭うんだよね。