海賊帝国の女神〜14話目「神垂(カンダー)れ」〜/米田

さて、君、私は転生者だ。

 

そして、前の世界では、立派な大人だ。

 

たとえ、この身が4歳女児の肉体となろうと、私の本質に何が変わろうか!

 

「我思う故に我在り」なのだ。

 

私が私である限り、それは私に他ならない!

 

 

つまり

 

 

子供じゃないんだから、いつまでも無理無理言っていも仕方が無いという事だ。

 

 

じゃあ、諦観して何でも受け入れるのか?

 

っていうのも違う。

 

 

大人というのは、しっかり考え、上手に立ち回り、最大の利益を享受するようにするって事だ。

 

全てのワガママ、要求は、必ずしも思い通りに、最短で通らないという事を理解しつつ、では、どうやったら、どういう道のりを通れば、目的に至るか?近づくか?思考を巡らせ、前進させるという事だ。

 

 

それは君の元居た世界でも同じじゃないのかな?

 

そりゃ、君の元居た世界と、私が元居た世界は違うとしても、この世界に転生して来たっていうのであれば、まったく全然異なる思想、思考という事はないだろう。

 

 

と、いう事で、私はゴザの上でアレコレ考えた。

 

 

まず、落ち着け。

 

まだ、私は4歳だ。

 

どんなに若く結婚話しがまとまるにしろ、いくら何でも、生理が始まらない限り、子作りはない。

 

いや、変質者に拉致監禁されて性奴隷にされるなんて事も、考慮せねばならいが、それはイレギュラーだ。

 

通常に置いて、すぐ結婚とかはない。これは間違いない。

 

よし、それなら焦る事はない。

 

じっくり対策なり方針を考えればいいのだ。

 

とりあえず、安心しよう。

 

 

安心したら眠くなって来た。

 

昨日の製塩、今日のイベントである。

 

4歳児にはシンドイ…かな?

 

とりあえず…私は意識を飛ばす。

 

 

で、気がついたら、夕方だった。

 

 

いやー寝た寝た。

 

ん?横に座っている人が居る。

 

だ、誰?

 

 

「目覚めましたか。クィンツ。」

 

 

女の人だった。

 

見た感じ、20代半ばって感じだろうか。

 

 

綺麗な人だ。

 

それに、優しそうだ。私を見て微笑んでいる。

 

 

私が着せられた様な白い上掛を着ている。

 

ただし、私のようなガチャガチャの装飾品は掛けていない。

 

ハチマキ見たいなものも無い。

 

髪はお団子のようにまとめられているけれど。

 

ちなみに髪の色は普通に黒だが…。

 

 

祈女(ユータ)…だよね?

 

 

「叔母様…」

 

 

女の人を見上げながら起き上がると、クィンツの記憶が勝手に口に出た。

 

 

そうだ。「叔母様だ。」

 

 

ただ、どういう関係の「叔母様」までは記憶にない。

 

「叔母様」と教えられただけだ。

 

 

んー。

 

 

母様の姉妹だろうか?…って事は親父の姉妹って事でもあるか?

 

 

「先日の神垂(カンダー)れでは、1晩寝込んだだけで済んだそうですね。良かったです。」

 

「神垂(カンダー)れ…?」

 

「…覚えて居ないのですか?」

 

 

何だ?

 

何かあったのか?

 

 

「…!…クィンツ…神代(カヌ)られたのですね。」

 

 

んん?

 

何を言ってるんだ。

 

 

「兄様のおっしゃっている事は本当なんですね。それで塩を作られた。」

 

「にぃ様?」

 

「あら。あなたのお父様の事ですよ。ハーティ兄様です。」

 

 

ああ、成る程。

 

親父の妹か何かになるのか。

 

でも、髪が黒いなぁ?

 

容貌も…とても血が繋がっているようには見えない。

 

 

あ、そういえば、

 

 

祖母様は親父を産んでから、どこかに嫁いだような事をチュチュ姐(ネーネ)が言っていたな。

 

それで、母様には、母違いの兄と、父違いの兄が居るんだった。

 

するとこの人は、母違いの兄と関係ある人なのかな?

 

という事なら、親父とは血縁じゃ無いって事か。

 

兄様は義兄という事か。

 

 

そこは納得したけれど。

 

 

「神垂(カンダー)れ…って何ですか?」

 

「先日、御嶽(おん)で奉納舞をお稽古中に神様に打たれたのです。」

 

 

ん?

 

御嶽(おん)…?

 

誰かに手を引かれて行った記憶があったけれど…。

 

そうか、この人だった。

 

思い出した。

 

 

「私も共に打たれ、意識を失って、目覚めたのが先日です。だから来るのが遅くなりました。ごめんなさいね。」

 

「いえ。叔母様もご無事で何よりです。」

 

「ありがとう…。あなたの歳で神垂(カンダー)れされた話しは聞いた事がないので、心配しました。でも、一晩で目覚めたのですから、問題ないですね。」

 

 

叔母さんはニッコリ笑う。

 

ホワンとする。

 

なんだろう?このホワンは?

 

叔母さんのキャラなのだろうか?

 

祈女(ユータ)の特性なのだろうか?

 

祈女(ユータ)の特性なら、私も他人にホワンとさせているのだろうか?

 

鏡で見た時は「萌えーーーー!」って感じなのだけれど。

 

 

「神垂(カンダー)れされた後は、引揚(ヒュク)をしないとイケません。」

 

「引揚(ヒュク)?」

 

「クィンツ、神様への祈りの言葉も、舞も忘れちゃったのではないですか?」

 

「え?ああ」

 

 

そう言えば、そうだ。

 

私は祈女(ユータ)であるという記憶はあるけれど、具体的に何をするのか、覚えていない。

 

というか、思い出せないのか?

 

何か踊っていた覚えはあるんだけれども。

 

 

「引揚(ヒュク)をすれば、大体は思い出せます。そしてあなたの力も揚がっているでしょう。」

 

 

お!

 

おお〜!

 

来たよぉ!来た来た!

 

魔法使い展開だぁ!

 

異世界転生の定番だ!

 

チートだよ。やっとチートが手に入るよ。

 

 

「嬉しいですか?」

 

「はい!叔母様」

 

 

キット私の目はキラキラしていたに違いない。

 

叔母様は苦笑する。

 

 

「稀に力が揚がらない場合もあります。あまり期待しすぎないでね。」

 

 

アラ。なんだか上げて落とされたような感じだ。

 

でも、「稀」でしょ?「稀」

 

 

「引揚(ヒュク)は何時(いつ)するのですか?」

 

「もう祭りまで日が有りません。祭りの夜に併せて行いましょう」

 

「祭りの夜?」

 

「明後日ですよ。」

 

 

うっひょぉ。明後日の夜かぁ。高まるぅ。

 

 

「ハーティ様がお戻りです。すぐ夕食になります。」

 

 

ティガが伝えに来る。

 

叔母さんは振り返ると

 

 

「こちらでも塩が使われるのでしょ?楽しみです。」

 

 

と、呟いた。

 

ん?叔母さんは塩を知っているのか?