さて、君、私は転生者だ。
そして、前の世界では、立派な大人だ。
たとえ、この身が4歳女児の肉体となろうと、私の本質に何が変わろうか!
「我思う故に我在り」なのだ。
私が私である限り、それは私に他ならない!
つまり
子供じゃないんだから、いつまでも無理無理言っていも仕方が無いという事だ。
じゃあ、諦観して何でも受け入れるのか?
っていうのも違う。
大人というのは、しっかり考え、上手に立ち回り、最大の利益を享受するようにするって事だ。
全てのワガママ、要求は、必ずしも思い通りに、最短で通らないという事を理解しつつ、では、どうやったら、どういう道のりを通れば、目的に至るか?近づくか?思考を巡らせ、前進させるという事だ。
それは君の元居た世界でも同じじゃないのかな?
そりゃ、君の元居た世界と、私が元居た世界は違うとしても、この世界に転生して来たっていうのであれば、まったく全然異なる思想、思考という事はないだろう。
と、いう事で、私はゴザの上でアレコレ考えた。
まず、落ち着け。
まだ、私は4歳だ。
どんなに若く結婚話しがまとまるにしろ、いくら何でも、生理が始まらない限り、子作りはない。
いや、変質者に拉致監禁されて性奴隷にされるなんて事も、考慮せねばならいが、それはイレギュラーだ。
通常に置いて、すぐ結婚とかはない。これは間違いない。
よし、それなら焦る事はない。
じっくり対策なり方針を考えればいいのだ。
とりあえず、安心しよう。
安心したら眠くなって来た。
昨日の製塩、今日のイベントである。
4歳児にはシンドイ…かな?
とりあえず…私は意識を飛ばす。
で、気がついたら、夕方だった。
いやー寝た寝た。
ん?横に座っている人が居る。
だ、誰?
「目覚めましたか。クィンツ。」
女の人だった。
見た感じ、20代半ばって感じだろうか。
綺麗な人だ。
それに、優しそうだ。私を見て微笑んでいる。
私が着せられた様な白い上掛を着ている。
ただし、私のようなガチャガチャの装飾品は掛けていない。
ハチマキ見たいなものも無い。
髪はお団子のようにまとめられているけれど。
ちなみに髪の色は普通に黒だが…。
祈女(ユータ)…だよね?
「叔母様…」
女の人を見上げながら起き上がると、クィンツの記憶が勝手に口に出た。
そうだ。「叔母様だ。」
ただ、どういう関係の「叔母様」までは記憶にない。
「叔母様」と教えられただけだ。
んー。
母様の姉妹だろうか?…って事は親父の姉妹って事でもあるか?
「先日の神垂(カンダー)れでは、1晩寝込んだだけで済んだそうですね。良かったです。」
「神垂(カンダー)れ…?」
「…覚えて居ないのですか?」
何だ?
何かあったのか?
「…!…クィンツ…神代(カヌ)られたのですね。」
んん?
何を言ってるんだ。
「兄様のおっしゃっている事は本当なんですね。それで塩を作られた。」
「にぃ様?」
「あら。あなたのお父様の事ですよ。ハーティ兄様です。」
ああ、成る程。
親父の妹か何かになるのか。
でも、髪が黒いなぁ?
容貌も…とても血が繋がっているようには見えない。
あ、そういえば、
祖母様は親父を産んでから、どこかに嫁いだような事をチュチュ姐(ネーネ)が言っていたな。
それで、母様には、母違いの兄と、父違いの兄が居るんだった。
するとこの人は、母違いの兄と関係ある人なのかな?
という事なら、親父とは血縁じゃ無いって事か。
兄様は義兄という事か。
そこは納得したけれど。
「神垂(カンダー)れ…って何ですか?」
「先日、御嶽(おん)で奉納舞をお稽古中に神様に打たれたのです。」
ん?
御嶽(おん)…?
誰かに手を引かれて行った記憶があったけれど…。
そうか、この人だった。
思い出した。
「私も共に打たれ、意識を失って、目覚めたのが先日です。だから来るのが遅くなりました。ごめんなさいね。」
「いえ。叔母様もご無事で何よりです。」
「ありがとう…。あなたの歳で神垂(カンダー)れされた話しは聞いた事がないので、心配しました。でも、一晩で目覚めたのですから、問題ないですね。」
叔母さんはニッコリ笑う。
ホワンとする。
なんだろう?このホワンは?
叔母さんのキャラなのだろうか?
祈女(ユータ)の特性なのだろうか?
祈女(ユータ)の特性なら、私も他人にホワンとさせているのだろうか?
鏡で見た時は「萌えーーーー!」って感じなのだけれど。
「神垂(カンダー)れされた後は、引揚(ヒュク)をしないとイケません。」
「引揚(ヒュク)?」
「クィンツ、神様への祈りの言葉も、舞も忘れちゃったのではないですか?」
「え?ああ」
そう言えば、そうだ。
私は祈女(ユータ)であるという記憶はあるけれど、具体的に何をするのか、覚えていない。
というか、思い出せないのか?
何か踊っていた覚えはあるんだけれども。
「引揚(ヒュク)をすれば、大体は思い出せます。そしてあなたの力も揚がっているでしょう。」
お!
おお〜!
来たよぉ!来た来た!
魔法使い展開だぁ!
異世界転生の定番だ!
チートだよ。やっとチートが手に入るよ。
「嬉しいですか?」
「はい!叔母様」
キット私の目はキラキラしていたに違いない。
叔母様は苦笑する。
「稀に力が揚がらない場合もあります。あまり期待しすぎないでね。」
アラ。なんだか上げて落とされたような感じだ。
でも、「稀」でしょ?「稀」
「引揚(ヒュク)は何時(いつ)するのですか?」
「もう祭りまで日が有りません。祭りの夜に併せて行いましょう」
「祭りの夜?」
「明後日ですよ。」
うっひょぉ。明後日の夜かぁ。高まるぅ。
「ハーティ様がお戻りです。すぐ夕食になります。」
ティガが伝えに来る。
叔母さんは振り返ると
「こちらでも塩が使われるのでしょ?楽しみです。」
と、呟いた。
ん?叔母さんは塩を知っているのか?
コメントをお書きください