海賊帝国の女神〜15話目「進化」〜/米田

母屋に向かうと、帰ろうとする主子(ウフヌン)たちとすれ違た。

 

 

「マィンツ様、この度もよろしくお願いします。」

 

「よろしくお願いします。」

 

 

主子(ウフヌン)ら叔母様にお辞儀をして立ち去る。

 

 

マィンツが、叔母様の名前なんだな。

 

よろしくとは、何の事だろう?

 

祭りが近いと言っていたから、その関係だろうか?

 

祭りとなると祈女(ユータ)が祭祀を司るのかもしれない。

 

 

マィンツはにこやかに会釈で応じるだけだ。

 

 

母屋では、床の奥でハーティとコルセが何やら話し込んでいた。

 

 

ウィーギィ爺が見当たらない。

 

チュチュ姐(ネーネ)の手伝いでもしているのだろう。

 

 

私らが入ると、コルセはサっと体を動かし、土間側のいつもの位置に控えた。

 

マィンツが床の端に腰掛けると、ティガが素早く草履を脱がせて足を洗う。

 

私の中のオッサンが「役得よのぉ」と呟いた。

 

 

マィンツがハーティの前に座し、私も続いて横に座る。

 

 

「戻りました。義兄様」

 

「うむ。クィンツはどうだ?」

 

「顔色もよく、体の方は問題はないかと。」

 

「そうか。」

 

 

ハーティは嬉しそうに口元を歪ませる。

 

 

「義兄様の言う様に、やはり神代(カヌ)られていると思います。」

 

「そうか」

 

 

ハーティは真顔になって私の顔をジッと睨む。

 

ウム。相変わらず怖いな。

 

神代(カヌ)られているっていうのは、中身が転生者だってバレバレっていう事?

 

まあ、それはそれでもいいんだけれどね。

 

でも、過度に期待されても、何も出来ないから。

 

 

「それで義兄様、鏡はそちらですか?」

 

 

マィンツはハーティの後ろに視線を移す。

 

壁に鏡が立て掛けられているが、例によって後ろ向きだ。

 

 

「見せて頂けますか」

 

「うむ。」

 

 

控えていたコルセがすかさず立ち上がって、ハーティの後ろに回り、鏡面を叔母様に向ける。

 

 

「まぁ」

 

 

マィンツは感嘆の声をあげた。

 

 

「これは…なんと見事な。見た事もない鏡ですね。」

 

「うむ。」

 

 

ハーティの鼻が高くなった。

 

 

「ムィンの物でしょうか?」

 

「いや、南来(パテラー)のものだ。」

 

「南来(パテラー)…義兄様はどこでこれを?」

 

「神様のお恵みだ。」

 

「神様のお恵み…。」

 

 

神様から貰ったんかーい?

 

んなワケはないだろう。

 

 

「義兄様は、神様に愛でられているのですね」

 

 

叔母様、それで納得するんかーい!

 

心の中でツッコミまくりだ。

 

 

「それでは、後ほどお借り致します。」

 

「うむ。」

 

 

コルセが鏡を戻す。と、ほぼ同時に、

 

 

「お食事をお持ちしました。」

 

 

チュチュ姐(ネーネ)の声がする。

 

 

 

食事は、チュチュ姐(ネーネ)らの他、初めてみる女の人たちによって運ばれて来た。

 

マィンツのお付きらしい。

 

マィンツがハーティの右に、私が左に移動すると、それぞれの前に膳が置かれた。

 

 

ティガが灯りを持って来て部屋を照らす。

 

小枝をまとめた小さな松明だ。

 

膳が照らし出される。

 

 

雑穀ご飯を盛った器に、焼き魚の切り身らしきものを乗せた葉っぱ。

 

切り身の上には上には白い粒々が光っている。

 

 

よしよし。

 

塩が振り掛けられているようだ。

 

添物は大根のぶつ切りか?

 

そして、汁の椀。

 

 

ん?

 

 

今日の汁は、なんか、色がある。

 

茶色い液体の中に青菜が揺れている。

 

 

えええ?

 

 

「お味噌汁…!」

 

 

思わず声を上げてしまった。

 

ハーティがちょっと驚いたように私を見る。

 

マィンツも私を見た。

 

 

「あら、クィンツは知っているのですか?」

 

「え?」

 

「これは、今日、マィンツ様がお持ち下さった味噌から、はじめて作ったのです。」

 

 

と、チュチュ姐(ネーネ)が説明してくれた。

 

 

「お前はどこでこれを知ったのだ?」

 

 

と、ハーティが尋ねて来る。

 

え、えええー…。

 

 

「…以前、神様が夢で…」

 

「…そうか」

 

「…そうなのですか」

 

 

ハーティとマィンツが納得の声を上げる。

 

てか、何でもそれで済むんかーーーい!

 

神様、ちょー便利扱いだなぁ。

 

 

「叔母様はどこでこれを?」

 

「兄様がソゥラヴィ様より賜ったのですわ。」

 

 

兄様っていうのは、ハーティの事じゃないよね。

 

えーと、ナータ・フーズって人だっけ?

 

で、ソゥラヴィ様って誰だよ?

 

 

「ささ、冷めてしまいますから、先に召し上がって下さい。」

 

 

チュチュ姐(ネーネ)促す。

 

 

とりあえず、例の食事用の棒切れを掴むと、

 

チャリ

 

と、という音がマィンツの方から聞こえた。

 

 

箸を掴む音だ。

 

 

マィンツが私の視線に気がついて、恥ずかしそうに微笑む。

 

 

「何だそれは。」

 

 

とハーティがマィンツの手元を見ながら訪ねた。

 

 

「箸って言うのですけれど。…その。」

 

「それもソゥラヴィからの賜り物か?」

 

「いえ。ビヤクでは、もう皆これを使っているからと、兄様のお勧めで…。」

 

「…そうか。」

 

 

ハーティはちょっと難しそうな顔をする。

 

何か考えているようだ。

 

 

この世界にも箸があるんだ。

 

現物があるなら、私も使えるかも。

 

箸なんて、ただの細い棒切れ2本なんだから、現物があるなら、ウィーギィ爺にでも作って貰えばいいかな。

 

それよりも今は…。

 

 

と、私は恐る恐る椀を掴むと、お味噌汁を啜った。

 

 

ズズ…。

 

 

う、うま!…く…もない。

 

確かに味噌だけれど、美味いって思う程じゃないな。

 

これは、あれだ…出汁が効いてないからだ。

 

単に味噌を入れただけの汁だ。

 

感動して損しちゃったよ。

 

まぁ、海水汁よりはマシか。

 

 

と、目の前でマィンツがおもむろに、汁の椀にご飯を落とした。

 

 

え?

 

猫まんま?

 

 

シャクシャクと椀を口元に持って行き飯を掻き込むマィンツ。

 

 

お、お行儀悪くないか?

 

叔母様、全然顔に似合ってないよぉ。

 

 

ハーティも驚いたような顔をしている。

 

 

「マィンツ、それは?」

 

「あ、こうすると、冷たい飯を暖かく食べられるって、教えて頂いたのです。」

 

「そう…なのか?まぁ、そうだな。」

 

「義兄様もお試し下さい。」

 

 

勧められたハーティは、少し躊躇したようだが、ガバっと飯の器を汁の椀の上でひっくり返して、から、椀を持って、口に掻き込む。

 

 

「うむ。イリキヤアマリ神の、新たなお恵みだ」

 

 

手の甲で口を拭いながらハーティが呟く。

 

 

あれ?

 

そのセリフ、この間も聞いたぞ。

 

 

私も、ご飯を味噌の椀に入れて掻き込む。

 

うーん。なっつかしい!この感じ。

 

 

お行儀悪い食べ方のような気がするけれど…。

 

原始の世界だから、お行儀がなんてどうでもいいのか?

 

 

塩に、味噌に、…箸か。

 

この数日で、食事事情が飛躍的に進化しているような気がするよ。