海賊帝国の女神〜31話目「アワ、キビ、ヒエ、各1石」〜/米田

「父様」

 

 

私は夕食後の母屋で、ハーティの前に座ってハーティを呼ぶ。

 

一応ウィーギィ爺(ジージ)も脇に控えている。

 

あれ?

 

以前もこんな状況があったな。

 

…そうだ、あれは、塩を作らせてくれと願い出た時だ。

 

あれから2年経っている。

 

そいえば、季節も同じ、夏に向かう頃だ。

 

私はちょっと懐かしい気分になった。

 

 

「どうした?」

 

「お願いがあります。」

 

 

ハーティは、ギョロリと私を睨む。

 

2年前は思わず目を逸らしてしまったが、今はもう逸らさない。

 

私はじぃっとハーティの目を見つめる。

 

 

「…うむ。何だ。」

 

「供物から、少しばかり、私が必要としている分を、分けて頂きとうございます。」

 

 

ハーティは押し黙った。

 

それからゆっくり口を開く。

 

 

「理由は?」

 

「私の従者見習いの報酬として。」

 

「…そうか」

 

 

それだけ言うと、ハーティは再び黙った。

 

目を瞑り、腕組みして考えている。

 

 

「アワ、キビ、ヒエ、各1石ずつ与える。それで鍛えるだけ鍛えて見ろ。見込みがあれば、また考える」

 

 

アワ、キビ、ヒエかよ!

 

しかも各1石かよ!

 

シビアだね。

 

それに見込みの有り無しって、何基準で判断するんだよ!

 

とか、各種ツッコミを、私は顔に出すことはしない。

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

と、手と付き、頭を下げる。

 

 

 

五穀と言われるものがある。

 

一般に、コメ、ムギ、アワ、ヒエ、キビ。あるいは、そのいずれかと代わって、マメだ。

 

要するに主食になりうる穀類だ。

 

村人らはこれらを順繰り生産している。

 

もちろん、一番美味いのはコメだ。

 

だが、コメには大量な水が必要で、耕作地は限られる。

 

なので、コメが生産出来ない場所、それぞれの特性にあった土地で、他の穀類を生産する。

 

うちのご飯が美味しくないのは、コメだけでなく、他の穀類も混ぜて炊き上げるからだ。

 

純粋にコメだけのご飯なら、旨味が全然違う。

 

 

エーシャギークの島は、かなり暖かいから、大体の穀類は二毛作だ。

 

特にコメの収穫はかなり大事で、だから、収穫後には祭祀が執り行われる。

 

ウォファム村の場合、それがイリキヤアマリ神の祭祀だ。

 

 

コメは最も売れる。

 

ただし、売れるといっても、現金収入になるわけではない。

 

 

そもそも、このあたりの島々では、現金である銭はほとんど見かけない。

 

銭の根源となる貴金属が取れないからだ。

 

なので主流は物々交換である。

 

 

エーシャギーク島の強みは、この人気穀類のコメがそこそこ採れる所だ。

 

繰り返す事になるが、コメを作るには、大量の水と、また、ある程度の水平地が必要だ。

 

エーシャギーク島には、そこそこ高い山があり、その結果、そこそこ水を湛えるから、そこそこ川になって流れる。

 

またそこそこ平地があるから、切ひらいて耕せば、そこそこの水田になるのだ。

 

なので、他の地域よりはコメがそこそこ採れる。

 

 

しかし、あくまでそこそこだ。

 

もっと言えば、他の島々に比べれば…というぐらいだ。

 

なので、コメだけを主食とし得ないのだ。

 

つまり、他の穀類と混ぜ合わせて頂くという事になる。

 

というか、そもそもコメは売れるから、消費は出来るだけコメ以外の穀類で…という感じだ。

 

 

だからハーティはコメ以外のアワ、キビ、ヒエを与えてくれた。

 

 

これが各1石。つまり、合わせて3石。

 

 

1石というのは、大人一人の1年間の消費量だと言われている。

 

私が養うのは20名の子供だから、3石だと、一人あたりにすれば、だいたい2ヶ月半から3ヶ月分ぐらいか?

 

 

親たちには、2、3ヶ月分のアワ、キビ、ヒエを渡すから、お宅のお子さんを貸してねってお願いする事になる。

 

それで、見込み…使えるか、使えないか、結果出せと。

 

 

まぁ、ハーティの立場なら、そう言だろう。

 

予想していたが、やっぱり甘くないなぁ。

 

コメだったら、親たちは大喜びだろうけれど…コメはダメか。

 

 

さらに言うなら、10歳以下の子供20人でどんな結果が出せと言うのだろうか?

 

 

だが、当然だ。

 

それぐらいのシビアさがなければ、主(ウフヌ)になどふさわしく無い。

 

 

ということで、ええ、出しましょうとも。

 

結果をね。

 

 

我に勝算ありだ!