海賊帝国の女神〜34話目「初体験」〜/米田

暗い。

 

暗い世界。

 

上も下も右も左も真っ暗だ。

 

まぁ、ある種おなじみだけれど。

 

 

暗い世界の中で、相変わらず、私自身は光っていた。

 

いい感じにだ。

 

それでも、目を上げれば、遠くに、星のような粒が見える。

 

多分、それは、きっと、アレだ。

 

アレって何だ?って言えば、アレだよ。アレ!

 

 

とりあえず私は、星のような粒に向かって足を進める。

 

 

近づけば、六人…いや、六柱の神が座っているのがわかる。

 

神々は車座になって座っている。

 

何かを話し合っているようだが、会話までは聞こえない。

 

 

私はようやく近くにまで歩み寄る。

 

ブツブツ声も聞こえて来る。

 

 

「こんにちわ。」

 

 

私の声掛けにようやく神々は私を見る。

 

皆、それぞれ文様が違う、何かの仮面を被っているようだ。

 

一瞬の沈黙。

 

神々は、私の事を認識したようで、座正し、体を私に向け、手を付いて頭を下げる。

 

 

「これは、これは、イリキヤアマリの主人(あるじ)よ、ご機嫌麗しゅう。」

 

 

一の仮面の神が挨拶する。

 

その名はヌゥハラカンドゥ。

 

野太く雄々しい声だ。

 

 

「ご機嫌麗しゅう。」

 

 

ニの仮面の神。

 

その名はアラシバナカサナリ。

 

甲高い声だ。

 

 

「ご機嫌麗しゅう。」

 

 

三の仮面の神。

 

その名はクゥムトフシンガーラ。

 

涼やかな声だ。

 

 

「ご機嫌麗しゅう。」

 

 

四の仮面の神。

 

その名はコムヴァハツカネ。

 

か弱い感じのする声だ。

 

 

「ご機嫌麗しゅう。」

 

 

五の仮面の神。

 

その名は、シューカゥン。

 

低く唸るような声だ。

 

 

「ご機嫌麗しゅう。」

 

 

六の仮面の神。

 

その名はトクゥアドゥン。

 

ダミ声だ。

 

 

 

慇懃な中に若干剣呑な雰囲気が含まれている六中の声。

 

私は苦笑する。

 

 

この6柱は元々人間だった。

 

今は、小さな島の祖神として祀られ、厚く信仰されている。

 

それぞれひとかどの武人だったそうだ。

 

まぁ、その力の一部は、以前御嶽(オン)巡りをして、ありがたく頂いている。

 

その際のやりとりで、彼らの予定よりちょっと多くの力を頂いたものだから、少し、根に持っておられるようだ。

 

とはいえ、神力で言ったら、私の方が遥かに上になっちゃっているから、下手に出ているようだけれど。

 

 

「丁寧なご挨拶、ありがとう。」

 

「…本日は、どういうご用件かな?」

 

 

二の仮面の神が問う。

 

 

「うんとね、欲しい人がいるの。」

 

「欲しい人?」

 

「この島にいる子だよ。一人ね。」

 

「カカカカ…ヌゥハラの家…ヌースの倅を言うとるのじゃろ」

 

 

ダミ声の六の仮面の神が笑いながら指摘する。

 

 

「ヌースの所の倅…なるほど。」

 

 

と、三の仮面の神。

 

 

「そんな事はヌースに聞けば良かろうに」

 

 

と、四の仮面の神。

 

 

「ヌースは今留守じゃよ。」

 

 

と、五の仮面の神。

 

 

「そうそう、ハーティと共に島を出ておる。」

 

 

と、二の仮面の神。

 

 

「それではヌースには聞けないのぉ。」

 

 

と、三の仮面の神。

 

 

「カカカ…だから我らに尋ねて来たのじゃろぉ。」

 

 

と、六の仮面の神。

 

 

「如何するかの?ヌゥハラカンドゥ。」

 

 

と、二の仮面の神。

 

 

一の仮面の神は直ぐに答えず、沈黙が訪れる。

 

 

ちょっと気まずい。

 

 

しばし後、一の仮面は神が声を上げる。

 

 

「島の者は、我らの保護下にある。」

 

 

うん?

 

どういうこと?

 

 

「…そうじゃの。ヌゥハラカンドゥ。と、なれば…」

 

 

二の仮面の神の言葉と共に、いきなり6柱の雰囲気が変わった。

 

う〜ん。

 

これはやばいヤツと違う?

 

 

「我らが島の者を欲するなら、我らを倒す覚悟をお持ちですな?」

 

 

一の仮面の神が、唸るように問いかける。

 

ただでさえ重々しい声なんだから、シャレにならない。

 

倒す覚悟って、そんなものはないよ。

 

もっと平和的に応じてもらえるモノかと思った。

 

 

私、嫌われているのかな?

 

やっぱり最初の御嶽(オン)巡りの時がまずかったかな?

 

 

まぁ、でも、欲しいモノは欲しい。

 

 

「倒さないと、ダメなの?」

 

「カカカ…そうなるかのぉ」

 

 

と、六の仮面の神。

 

この神様の笑い声は耳に障る。

 

 

「そう、なら、しょうがないわ。」

 

「おやおや?本気かのぉ?」

 

 

と、五の仮面の神。

 

本気も何も、言い出したのは、そっちじゃない?

 

 

ちなみに私の神女(カンヌ)としての力、つまり神力は、レベルでいえば2ぐらいだ。

 

一方、六柱の神様方の神力は、それぞれ、レベル1ぐらい。

 

つまり、私は彼らの倍する力を持っている。

 

彼らが私に下手に出ているのは、そういう差からだ。

 

 

だけれど、私は一人なのに対して、彼らは六柱だ。

 

実際に戦うとなると、数の上では負けている。

 

そこに勝機を見出しているようだけれど…ちょっと舐めすぎじゃない?

 

 

ブワッと、空間を割く音が響く。

 

私は五の仮面の神に向かって火炎をぶつけたのだ。

 

 

「うぉ!?」

 

「何をする!?」

 

 

何をするって、倒さないとダメだって言ったのはそっちじゃない?

 

そうとなれば、私は速攻だよ。

 

 

「あなた方を倒すの。」

 

「イキナリとは、無礼な」

 

 

無礼とか言ったのは二の仮面の神。

 

私は、そっちにむかって火炎をぶつける。

 

私の火炎は風の力も伴っているから、単なる炎属性の攻撃じゃない。

 

 

「むぉぉ!」

 

「ち、散れ」

 

 

散られると面倒なんだよね。

 

私は残りの4柱の神々にも火炎をぶつける。

 

さすがに、奇襲出来るのは最初の2発ぐらいで、4柱らは、きっちり防御の姿勢を取る。

 

 

「舐めるな!」

 

 

と一の仮面の神。

 

でも、それはあくまで火炎に対してでしょ?

 

私はすかさず、氷槍を投げつける。

 

 

「ごあ!?」

 

「なんだ?これは?」

 

 

氷だよ。

 

南の島の神様には縁がないものだからね。

 

神力の実体化には、イメージが大事なんだよ。

 

それに、私は、まだ6歳の女の子なんだから、近接戦闘とか無理だし。

 

 

「ぐぁ!」

 

「うぎゃ!」

 

 

六柱の誰か——いちいち確認してない——が、悲鳴をあげた。

 

でも、そんなの信じられない。

 

私は間断なく氷槍を浴びせ続ける。

 

私が撃たれるは嫌だから、遠慮なんかしない。

 

やがて、神々が倒れ、ぐうの音も出なくなった所で、攻撃を一度止める。

 

油断させておいて、まだ攻撃してくる可能性があるから、一応巨岩を、ボロボロになっている六柱の頭上に用意はしているけれど。

 

 

「う…う。」

 

「……。」

 

 

うめき声は聞こえてくるけれど、それ以外は特に反応はない。

 

 

「おーい…生きていますか〜?」

 

 

て、神様は死なないから、生きてますか〜?もないか?

 

 

「キ、キサマ…。」

 

 

喘ぐように三の仮面の神が声を上げた。

 

まだ、そんな態度が取れるんだ。

 

私は三の仮面の神の頭上に置いた巨岩を投下する。

 

グシャっていう音が聞こえた気がした。

 

 

「うぎゃぁ!」

 

 

大丈夫。

 

巨岩は10秒もしないうちに消えるから。

 

でも、消えると同時に再び頭上に復活するんだけれどね。

 

 

「恐れ入りました…」

 

 

四の仮面の神が平伏する。

 

 

「誠に…」

 

 

五の仮面の神も続く。

 

 

「かかか…げに恐ろしきかな…」

 

 

六の仮面の神。

 

笑っているから、まだ余裕があるんだろうか?

 

続けて二の仮面の神、三の仮面の神も平伏する。

 

最後に一の仮面の神が、両手を付くが、他の神らと違ってやや頭が高い。

 

プライド?

 

プライドなの?

 

 

「…そなたの強さは…認めよう…。」

 

 

一の仮面の神がゆっくり声を出す。

 

 

「カカカ…少々卑怯ではあるがのぉ」

 

 

グシャ。

 

私は六の仮面の神の頭上の巨岩を落とす。

 

こういうのは容赦してはいけない。

 

 

「それで、これは、倒したって事になるのかしら?」

 

「もちろんです。」

 

 

四の仮面の神が平伏しながら声を出す。

 

こういう空気が読めるタイプは嫌いじゃないよ。

 

 

「じゃあ、私が一人連れ出すのに文句はないわね。」

 

「文句はありません。」

 

 

五の仮面の神。

 

 

「異論はない。」

 

「ワシも同じじゃ」

 

 

二の仮面の神、三の仮面の神も同意の声を上げる。

 

 

「それじゃあさ、ちゃんと祈女(ユータ)を通して伝えてね。」

 

「家族に…ですか?」

 

「そうよ。そのためにお願いに来たんだから。」

 

「はは!」

 

 

五柱が頭を下げる中、一の仮面の神だけが、俯くだけで頭を下げない。

 

 

「そっちの神様は異論があるの?」

 

「…う、うう。」

 

「申し訳ありませぬ。ヌゥハラカンドゥは、その者の祖神ですので」

 

 

二の仮面の神が庇う。

 

 

「祖神?だから何よ。」

 

「い、いや。ワシも異論はない…どうか面倒を見て下され。」

 

 

一の仮面の神が平伏する。

 

面倒はキチンと見るよ。

 

当たり前じゃないか。

 

フン…と私は鼻で返事をする。

 

なんかこの態度は、悪役令嬢っぽいな。

 

 

とは言え内心では、初めての神々との戦闘に、かなり冷や汗をかいていたのだけれどもね。

 

そのあたり、余裕ない態度になってしまったかもしれない。